家族葬エピソード619：「私が逝くまで待っててな」
今回お見送りをさせていただいた方は70代の男性の方でした。
奥様も子供様達もまだまだお若く、葬儀の経験もあまりないご家族でした。
ただ、奥様のご希望は、『お花は沢山飾ってあげたい』と言う事でした。
旅立つお召し物は、ご主人が若い頃誂えた紺色の着物のアンサンブルと決められていました。
祭壇にお花が入り、納棺も終わり、２日間寝ていないと言われていたご家族は少し落ち着かれたようで、
笑顔をあまり見せられてなかった息子様も、少しづつお話をしてくれるようになりました。
趣味は仕事と家族、そんなご主人だった...と奥様が昔を思い出しながら、
「ホントに、仕事が終わったらまっすぐ家に帰ってきてたのよ！」
と、嬉しそうに話されていました。
息子様がサッカーを頑張っているときは送り迎えも積極的にしてくれて、とても優しいお父さんだったと...
ただ、病気が進行していき、9年間ずっと食べ物を口にしていなかったらしく、
あんなに大好きだったビールやお肉を食べることが出来ず、かわいそうだった...
と、奥様が話されていると息子様と娘様は、下を向きうんうんと頷かれていました。
何かできないかと、ビールとステーキをお供えさせていただく事になりました。
お供えする前に、奥様達から、
「ホントに用意してくれたの？ほんとにずっと何も食べれてなかったのよ 喜ぶわ、ありがとう、ありがとう」
と、言っていただき、ご親戚の方達も、
「好きやったんよ、ビール！お肉まで用意してくれたんやね、よかったなぁ...」
と、故人様に話しかけられていました。
とても明るい奥様でしたが、お別れが始まると、
「お父さん、お父さん、私が逝くまで待っててな。他の人の所に行ったらダメよ」
と、頬を撫でながら涙を流しているお姿は、見ている方も悲しみに締め付けられるようでした。
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